ブロメリア新属“スティグマトドン”とは?分類史と育て方まとめ【Stigmatodon】

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↪︎ 最終更新 2025年 10月 14日

こんにちは、チラグラファー・愛好家の【wanchan(わんちゃん)】です。

存在感ある肉厚/硬質な葉が魅力のビザールプランツ『スティグマトドン』。2014年にフリーセア属から独立した新属です。

ブロメリア好きにとっては気になるアイツ的存在ですが、ほとんど流通がない上情報が極端に少なかったので、今回は彼らの分類史や生態・種類・育て方について出来る限り詳しくまとめてみました。

スティグマトドンとは?

※写真はスティグマトドン・ハリールーサリー

スティグマトドンはブラジル原産の非常に希少なブロメリアで、マニアの間では驚くほどの高値で取引されています。

スティグマトドンブロメリア科の「ティランジア亜科」の植物で、我らがティランジア属とは従兄弟のような存在。肉厚な葉と、シルバーグレーのトリコームが魅力で、ティランジアをきっかけにハマる人がいるのも頷けます。

以下は詳しい分類です。

ブロメリア科
 L ティランジア亜科 (Tillandsioideae)
  Lフリーセア族
   L スティグマトドン属

ティランジア亜科の分類

スティグマトドンが属するティランジア亜科は【ティランジア族・フリーセア族・グロメロピトカイルニア族・カトプシス族】の4族に分類され、さらにその下位には20以上の属があります。

スティグマトドンをはじめ、よく耳にするティランジアカプトシス、ラシナエア、フリーセア、ワリシアなどはこの属名を指しています。

以下がティランジア亜科 の4族と、それに含まれるすべての属です。

1. Tillandsieae(ティランジア族)

  • Tillandsia(ティランジア属)
  • Wallisia(ワリシア属)
  • Barfussia(バルフシア属)
  • Pseudalcantarea(プセウドアカンタレア属)

2. Vrieseeae(フリーセア族)

  • Vriesea(フリーセア属)
  • Stigmatodon(スティグマトドン属)
  • Alcantarea(アカンタレア属)
  • Guzmania(グズマニア属)
  • Josemania(ホセマニア属)
  • Goudaea(ゴウデア属)
  • Lemeltonia(レメルトニア属)
  • Lutheria(ルセリア 属)
  • Racinaea(ラシナエア属)
  • Waltillia(ウォルティリア属)
  • Werauhia(ウエラウヒア属)
  • Zizkaea(チツカエア属)
  • Jagrantia(ジャグランティア属)
  • Cipuropsis(キプロプシス属)

3. Glomeropitcairnieae(グロメロピトカイルニア族)

  • Glomeropitcairnia(グロメロピトアイルニア属)
  • Mezobromelia(メゾブロメリア属)

4. Catopsideae(カトプシス族)

  • Catopsis(カプトシス属)

さらに近年では属間交配による新属も誕生しています。

  • Guzlandsia(グズランジア属)※Guzmania × Tillandsia
  • Tillafussia(ティラフシア属)※Tillandsia x Barfussia 滝沢会長登録
  • Racindsia(ラシンディジア属)※Tillandsia x Racinae 滝沢会長登録
  • Barcinaea(バルシナエア属)※Barfussia x Racinaea 滝沢会長登録
  • Tillamatodon(ティラマトドン属)※illandsia x Stigmatodon 滝沢会長登録
  • Vriesmatodon(フリセマトドン属)※Vriesea x Stigmatodon 滝沢会長登録

※常に新属誕生、再編成が行われていますので最新でない可能性があります

これらの植物のうち土を必要としない“エアブロメリア”は、エアプランツの愛称で親しまれています。                

属名の由来

属名のStigmatodon は、

  • stigma(柱頭)+ odon(歯)
    =「歯のような柱頭を持つもの」

という意味で、この群の形態的特徴を端的に表現しています。

恐竜みたいな名前でインパクトがありますよね。

生息分布の特徴

スティグマトドンは、ブラジル南東部の以下の地域に集中分布しています。

  • Espírito Santo州
  • Bahia州
  • Minas Gerais州

いずれも根を岩の隙間に張り、乾湿のリズムの中で生きる“岩上性(リソファイト)のブロメリア”です。

スティグマトドン属の分類史

1. もとはフリーセア属の一部だった(1800〜1900年代)

19世紀〜20世紀の長い間、スティグマトドン属の植物はすべてフリーセア属に含まれていました。

当時の分類は、花の形や柱頭の形など形態学的特徴に基づいており、DNA解析が行われていなかったため、「似たものはとりあえずVriesea属へ」という時代でした。

2. 再検討の始まり(2000年代)

2000年代に入り、DNA解析による分子系統分類学が進みます。
これにより、フリーセア属が実際には複数の系統が混在していることが判明しました。

系統解析(DNA Phylogeny)の結果

DNA解析の結果、フリーセア属内の種を比較すると、明確に3つの系統群に分かれました。

   ┌── A群: Vriesea本来の系統
┬───┤      (湿潤林性)
│   └── B群: Alcantarea(大型種)
│
└── C群: Stigmatodon群
         (岩上性・小型・乾燥地適応)

このうちC群 は、ブラジル東部の岩上性・小型のグループ(いわゆる“lithophytic Vriesea”)で、他のフリーセアとは形態的・遺伝子的にかなり離れていることが明らかになり、新属スティグマトドンとして切り出されました。

3. 新属「Stigmatodon」として再定義(2014年頃)

この分子系統研究を踏まえ、ブラジルの植物学者 Leme, Siqueira Filho, Versieux らが中心となって、この独立系統をStigmatodon属として正式に再分類しました。

  • 正式な再分類発表:2014年頃(Botanical Journal of the Linnean Society など)
  • 定義づけの中心人物:
     • Elton M.C. Leme(ブラジルの著名なブロメリア学者)
     • J.A. Siqueira Filho
     • L.M. Versieux など

彼らは形態的にも、

  • 柱頭が「歯のように見える」特徴
  • 花序や苞葉の構造
  • 岩上性・乾燥適応的な生態

といった点を根拠に、スティグマトドン属を明確に分離しました。

スティグマトドン属の特徴まとめ

分類的特徴内容
生態型岩上性(リソファイト)・小型種中心
厚く革質、トリコーム密生で白銀色〜灰緑色
花序単純またはわずかに分枝、コンパクト
柱頭「歯のような」独特の形態(属名の由来)
DNA系統Vriesea とは独立した単系統群を形成
分布ブラジル東部の花崗岩岩壁や山地

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4. 現在の扱い(2020年代以降)

2025年現在では、30ほどの種スティグマトドン属に含まれています。

以下は主な種のリストです

  • Stigmatodon amadoi
  • Stigmatodon apparicianus
  • Stigmatodon belloi
  • Stigmatodon bifidus
  • Stigmatodon brassicoides
  • Stigmatodon costae
  • Stigmatodon croceanus
  • Stigmatodon euclidianus
  • Stigmatodon fontellanus
  • Stigmatodon funebris
  • Stigmatodon gastinianus
  • Stigmatodon goniorachis
  • Stigmatodon harrylutheri
  • Stigmatodon magnibracteatus
  • Stigmatodon multifoliatus
  • Stigmatodon plurifolius
  • Stigmatodon rosulatulus
  • Stigmatodon sanctateresensis

また、近年の論文ではさらに以下のような追加・新記載種が報告されています。

  • Stigmatodon ilhanus — 新種記載(Leme et al. 2022)
  • Stigmatodon itamarajuensis — 新種記載(Leme et al. 2022)
  • Stigmatodon viridibracteatus — 新種記載
  • Stigmatodon lemeanus — 新種/組合せ(Couto et al. 2023)
  • Stigmatodon oliganthus — 属変更(Tillandsia → Stigmatodon)
  • Stigmatodon enigmaticus — 新種記載
  • Stigmatodon medeirosii — 新種記載(2024)

分類史のまとめ

年代出来事内容
1800–1900年代フリーセア属に含まれていた花の形態だけで分類
2000年代DNA解析により再検討ブラジル東部系統が独立傾向と判明
2014年頃スティグマトドン属が正式設立Lemeらにより定義・再分類
現在約30種ほどの独立属として確立ブラジル大西洋岸の岩上ブロメリア群

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スティグマトドンの育て方

原生地を知る

Photo by エアープランツ天狗堂

スティグマトドン属の種はブラジル原産の岩上性(リソファイト)のブロメリアで、乾湿交代する岩壁環境に適応した植物です。
そのため、通常の鉢植え植物とは異なる管理の注意点があります。以下は、できるだけ原生環境に近づけて育てるためのポイントと注意点です。

特徴を知る

スティグマトドンの特徴を押さえておきます。

  • 葉は18〜20枚ほどでロゼットを形成し、厚い革質的な性質を持ちます。
  • 両面に白っぽい毛(鱗片・トリコーム)が密生しており、緑色が見えないほど白銀色に見える個体も。
  • 開花時には基部の葉が反り返る(リフレックス)傾向があります。
  • 花序は単純型(分枝しない)で、約 35 cm 程度に達することがあります。
  • 夜間開花し、にんにくに似た香りを出すとの記録もあります。
  • 自然分布は標高約 200 m 周辺の岩場。開けた岩壁上で他の植物が少ない場所に点在しています。

これらの性質から、スティグマトドン十分な光、乾燥-湿潤のメリハリ、通気・排水性の良さを重視した管理が向いていると言えます。

栽培の環境づくり

以下の要素をできるだけ原生環境に近づけます。

管理要素推奨条件ポイント・注意点
光(照度)明るい日陰~半日光~強い拡散光
LED環境なら2〜3万ルクス
直射日光下だと葉焼けする可能性があるので、午前の柔らかい日差し、日中は遮光
温度夏:20〜30 ℃前後、冬:最低10〜15 ℃程度を目安氷点下に長時間さらすと傷む
冬期は加温できる場所で管理
湿度中〜高湿(60〜80%程度)を意識ただし過度の常時過湿(葉が常に濡れている)には注意
通気良好であること健康な成長と病害抑制のために風通しを確保
基質 / 栽培形態鉢植えまたは岩板/コルク/砕石固定岩上性を模すため、粗く透水性の高い素材を使う(例:軽石・粗バーク・岩片混合など)
水やり乾燥期と湿期を交互に、ある程度の「乾かす時期」を作る葉筒(ロゼットの中心)に水をためすぎないよう注意
根元や基質に水を与える方式が望ましい
肥料ごく薄い液体肥料を控えめに施す月1回以下、標準濃度の1/4~1/10 程度から始める

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以下は、具体的な管理手順です。

鉢植えor着生で管理

  1. 鉢植え
    粗い素材(軽石、バーク、岩片など)を使い、排水性を確保。鉢底に穴が大きめにあって、水が滞留しない構成が望ましい。
  2. 定着・固定
    流木や岩板やコルク板などに固定する場合は、根や基部をワイヤーで巻く。乾燥気味の環境なら水苔などを一緒に固定する。

海外からの順化時は慎重に

導入直後は強光や直射日光に晒さず、明るい日陰で1~2週間様子を見ながら徐々に光に馴染ませましょう。

日常の管理

  • 水やり
    • 基質表面が乾いてからたっぷりと湿らせる
    • 多少湿度を保つが、常時ビシャビシャにはしない
    • 葉筒に水をためるのは避ける
  • 葉面管理(必須ではない)
    • ほこり・水あかがついた場合は、軽く霧吹き+柔らかいブラシ/布で拭う
    • 葉のトリコームを痛めないよう、過度な摩擦には注意
    • 枯葉は除去する
  • 肥料
    • 成長期に薄めの液体肥料を与える
    • 濃度や頻度は控えめにし、過肥を避ける
  • 換気・通風
    • 室内育成の場合、小型ファンなどで空気を動かす
  • 温度管理
    • 冬期低温対策:夜間冷え込みがきつい場合は室内に取り込むか、ヒーターなどで補温をする
  • 遮光・日差し調整
    • 強光期には遮光ネットなどで光量を調整

開花・花後管理

  • 開花期には、葉基部がリフレックス(そり返る)する傾向あり。これは正常な現象。
  • 開花後、株は徐々に老化し、脇芽(子株)が出る。子株がある程度のサイズまで育ったら分株して管理する。
  • 古い花茎は枯れ切った段階で切除して見栄えを整える。種子が要らなければ受粉させずにエネルギーを子株に向けると良い。

害虫・病害

  • 過湿や蒸れが続くと根腐れ・葉腐れ・菌核病・カビの発生リスク。
  • アブラムシ、ハダニ、カイガラムシなどの一般的な害虫に注意。
  • 定期的なチェックと早期対処が肝要。

最後に

スティグマトドンは高級種ばかり…。枯らした時のダメージは大きそうですが、決して栽培難種という訳ではありません。

基本的には岩着生のティランジアと同じ管理で問題ないので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

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